今月のエッセイ(2019/07)
Author: セプティマ・レイ
7月です。私も今月で56歳になります。朝日新聞で上場会社の新社長の紹介コーナーを見ると、だいたい55歳から60歳の方が社長になっています。また、公務員のトップである事務次官も56歳くらいで着任するケースが多いようです。つまりはもう上がりの歳になったということですね。定年がない音楽業界では70歳現役なんて人がざらにいますが、みなさん、ほんとに元気です。30年以上休まずに働いてきた私としては、残りの人生をゆっくり楽しみたいという気持ちが日に日に強くなっています。
6月は早稲田大学法学部のゼミ選抜がありました。倍率は2倍で前年度の4.7倍を大きく下回りました。長年にわたり倍率トップを維持してきたので、この数字は衝撃でした。2011年4月の着任以来、心血を注いできたゼミですから、人気が急落したことをにわかには受け止めきれませんでした。しかし、冷静に考えると、早稲田大学ではエンタメ法のゼミのニーズがなくなったということです。ただ、希望者全員が素晴らしい学生で、本当に迷いました。どの学生も甲乙つけがたく、定員の10名を合格としました。なお、早稲田大学の安藤ゼミはその役目を終えたということで、今の2年生が卒業する2022年3月をもって終了することにしました。
長年にわたって、レコード会社の法務部が作成する契約書をチェックしていますが、相変わらず、容器代は税込小売価格の10%、出荷控除20%、配信控除20%、サブスクリプションサービスの原盤印税は配信事業者からの入金額の15%(原盤印税と同率)といったバカげた条項を入れてくるケースが多く見受けられます。なぜバカげているかは、拙著「よくわかる音楽著作権ビジネス」をお読み頂きたいのですが、その理由として、「これは社内基準です」とか「これは弊社のポリシーです」といった意味不明で理解不能な主張をするレコード会社があります。「社内基準」や「ポリシー」を持ち出すことは、「理由なんかありません」と言っているに等しいです。しかも、ほとんどはレコーディングが終わってから、契約書のドラフトを送ってくるのです。後出しジャンケンにもほどがあります。
私が音楽業界に入った30年前には、レコード会社の法務部の方々は私のような若造にいろいろ教えてくれました。そして、お互いが譲歩できるギリギリの着地点を一緒に探しました。今はメールで契約書を添付して、「ご確認をお願いします」と一言だけです。何の説明もありません。さらにプロダクションが契約書の修正を要求すると、前述の「これは社内基準なので、受け入れられません」とか「これは弊社のポリシーなので、そのままでお願いします」というゼロ回答を寄越すのです。今の法務部は相手の顔を見て、誠実に説明することはあるのでしょうか。その時は自社に有利な条件で契約が締結できたと自画自賛しても、相手は「もう二度とこの会社と仕事しない」と思っている可能性があるのです。特に継続的取引をする相手に対して、一方的な契約内容を強いることはとても危険です。これは交渉学のイロハのイですが、かれらが理解することはとても難しいようです。