今月のエッセイ(2014/10)
Author: セプティマ・レイ
9月の最終週から大学の秋学期が始まりました。このことを言うと、「大学教員は夏休みが長くていいよな~」と必ず羨ましがられます。確かに8月から9月下旬までの2か月近い休みというのは、本当に魅力的です。ただし、この長い期間中、ただ自宅でのんびり過ごしているわけでも、2か月間のバカンスを楽しんでいるわけでもありません。中にはそういう教員もいるでしょうが、多分(願わくば)少数派です。たいていの教員は研究活動に専念します(しているはずです)。
私もこの夏休みは3本の論文を執筆しました。正確にいうと9月末時点で脱稿したのは1本だけですが・・・。1本は共同執筆による著作権法の教科書に掲載されるものです。担当部分は音楽著作物と著作権譲渡に関するものです。もう1本は12月に発行される『年報知的財産法』に掲載されるもので、音楽配信ビジネスにおける法制度がテーマです。この号の特集が音楽配信ですので、このエッセイの読者のみなさんはきっと興味があることと思います。
最後の1本は、著名な弁護士の先生の記念論文集に掲載されるもので、テーマは著作権契約法です。私は長年にわたって、交渉力の弱い著作者や実演家はレコード会社や音楽出版者との契約で不利な立場に立たされており、クリエイターを保護する規定を著作権法に盛り込むべきだと主張してきました。当初は孤軍奮闘の感があったのですが、最近は私の意見に賛同する学者の先生たちが少しずつ増えてきました。この論文はこのような観点からクリエイター保護の必要性を訴える内容になっています。
その原稿の中で紹介する外国の法制度の一つとして、アメリカの終了権制度というものがあります。これは、著作者が他人に著作権を譲渡したり、ライセンスしたりしても、契約から35年経てば、著作者は著作権を取り戻すことができるという制度です。これは著作者に対して、契約のチャンスを2度与えようという発想の下に作られたものです。著作権を譲渡する場合、最初の交渉では著作者は安く自分の作品を売り渡すことになります。そもそもその作品がヒットするか分からないですし、相手の企業は交渉力・経済力に上回ります。なので、著作者は潜在的価値の高い作品でも二束三文で売ってしまう傾向にあるのです。
しかし、35年経てばその作品が成功しているかどうかは、明白です。35年経っても売れ続けている小説や映画、楽曲は少なくありません。このような作品の著作者は相手から著作権を取り戻すことによって、強い交渉力を持つことができるのです。同じ相手に高い値段で著作権を売ってもいいですし、別の企業にライセンスしてもいいわけです。この制度は1978年1月1日に始まったものなので、35年後の2013年1月1日から著作者は自分の作品の著作権を取り戻して始めています。
実は私がアメリカのロースクールに留学したのは、この終了権制度を研究するためでした。3年間の研究の成果は、「アメリカ著作権法における終了権制度の一考察」という論文にまとめて、早稲田法学会誌58巻2号に掲載しました。なお、10月3日(金)の18時30分から20時まで(ポスターには20時30分とありますが、間違いです)、早稲田大学の早稲田キャンパスの大隈小講堂で、アメリカの終了権制度についての講演会を行います。どなたでも参加できますし、無料です。詳しい情報とウェブからの申込みは、以下のサイトに掲載されていますので、興味がある方はぜひお越しください。よろしくお願いします。
早稲田大学 知的財産法制研究所(RCLIP)ウェブサイト
ポスター(pdfファイル)