今月のエッセイ(2013/06)
Author: セプティマ・レイ
最近、英語試験であるTOEFLがにわかに注目を浴びています。自民党の教育再生実行本部がTOEFLを大学入試に義務づけることを安倍首相に提言したり、政府がキャリア官僚の採用試験でTOEFLを採り入れる方針を発表するなど、TOEICに代わってTOEFLが英語力の判断基準になりそうな勢いです。
ご存じのとおり、TOEFLは相当難しいテストです。アメリカの大学や大学院に正規留学するための必須試験とされているため、アメリカのロースクールに留学するために9年ほど前に6回ほど受けたことがあります。現在のiBT(120満点)とは違ってCBT(300満点)でしたので、スピーキングはありませんでした。TOEFL専門の英語学校に半年間通いましたが、それでも250点を取るのが精一杯でした。
TOEFLはアメリカの大学で学ぶことを前提にしているので、生物、化学、物理、地理、歴史といった教養科目の英単語がたくさん出題されます。これらの単語を覚えるだけでも嫌になります。また、リスニング問題もかなり高度なので、英語が苦手な人は何を言っているのか、まったく分からないでしょう。それほどの難敵なのです。
そのような難易度の高い試験を大学入試やキャリア官僚の採用試験に利用しようというのですから、自民党も大胆です。日本人の国際化に向けて荒療治を施そうということでしょうが、あちこちから反対の声が挙がっています。英語学者の江利川春雄先生もブログで政府の方針を痛烈に批判しています。しかし、残念ながら日本の学校における英語教育が十分な成果を上げていないのも事実です。
私としては英語教育のあり方に関する議論が活発になるのは、歓迎すべきことだと思います。ただし、議論する上で注意しなければならないことが一つあります。それは「学問に王道なし」ということです。地道な勉強を毎日こつこつ続けるのが、実は上達への一番の近道です。毎日30分、ディクテーションをやるだけでリスニング力はかなり上達します。
勉強しないでも上達するという英語教材の広告が新聞・雑誌に大量に掲載されていますが、かなり疑問です。英語学習の有名な言葉に「知らない単語は聞こえない」というものがあります。そもそも単語を知らなければ、あるいは構文を知らなければ、聞き取れる訳がありません。やはり、「学問に王道なし」です。今の子供たちに必要なのは英語力ではなくて、実は地道な努力を可能とする忍耐力なのかもしれません。