今月のエッセイ(2017/06)
Author: セプティマ・レイ
6月です。もうすっかり夏ですね。年々、春が短く、夏が長くなっているような気がします。さて、先日、新聞を読んでいると大変ショッキングなニュースが目に入ってきました。それは通訳ガイドの自由化です。これまで「通訳案内士」の国家資格を持つ人にだけ認められてきた外国人旅行者への有償の通訳ガイドが、法改正により無資格者でもできるようになるそうです。ただし、国家資格は残し、より質の高い案内士として活用する方針ということです。しかし、無資格でも従事できる仕事の資格試験を受ける人が何人いるのでしょうか。今年度の通訳ガイドの受験者数は激減すると思います。
そもそも通訳ガイド制度について、これまで観光庁は真摯かつ誠実に取り組んできませんでした。それは通訳ガイドの試験問題を見れば一目瞭然です。難問・奇問のオンパレードのため、語学力を持っていても、日本地理、日本歴史、一般常識の試験を受かるためには、かなりの時間と労力を割かなければならないのです。もちろん、通訳ガイドの仕事上、必要な知識であれば、勉強するのは当然のことです。しかし、通訳ガイド試験は通訳の仕事に役立たない難問・奇問が数多く出題され、それが通訳ガイドの合格率を下げているだけでなく、優れた語学力を持つ通訳者の受験を手控えさせてきたのです。
一例を挙げましょう。昨年度の一般常識の一問目は、輸出総額が約3.5兆円の産業を5つの選択肢から選ばせる問題でした。選択肢は、①プラスティック、②自動車部品、③船舶、④二輪自動車、⑤食料品です。これって通訳ガイドに必要な知識でしょうか。観光客がこんな質問を通訳ガイドにするでしょうか。私は④二輪自動車を選びましたが(バイク好きなため)、正解は②自動車部品でした。私の得点は48点でしたが、それでも合格でした。専門学校によると合格ラインは43点だったそうです。通訳ガイド試験には、多くの批判にもかかわらず、長年にわたり難問・奇問が出題され続けてきました。最近になって日本地理と日本歴史の試験には、まともな問題が出るようになりましたが、あいかわず一般常識は常識外れの問題が出されていました。
観光庁はこのような問題を放置し、優秀な人材をみすみす逃がしていたわけです。挙句の果てに、通訳ガイドは無資格でもできる制度に変更するとは開いた口が塞がりません。さらに試験制度自体は残すというのですから、私の理解能力を遥かに超えています。語学ができない通訳ガイドが大量に生まれ、質の低い通訳サービスを提供し続けることでしょう。日本の歴史・地理・文化について間違った情報や知識を外国人観光客に伝え、彼らがそれを母国に帰って広めることでしょう。現政府はそれでいいのです。たかが観光、たかが通訳ガイドなのです。多分、全国にいる通訳ガイドの方々が同じ想いを持っていると思います。こういう行政の失態を見ていると、政治家と役人の質が本当に下がったとつくづく思います。今年の2月に取得したばかりの通訳案内士の登録証を眺めては、涙する今日この頃なのです。